無花果にもいろいろある [親から届いた野菜です]
両親は定年後、二人で畑を耕す生活を送っています。 |
text by 堀江優子
広島についたらこれで体を馴染ませる
東京から広島まで新幹線に乗って約4時間。この日、広島市内は快晴でした。私は広島に戻ると「これはしておきたい」ことが3つほどあります。
この3つをすることで、私は広島に体を馴染ませるのです。
帰ってきたぞ。広島。
1「うどんやおはぎがおいしい『ちから』でうどんを食べる」
→チェーン店の「ちから」は広島市内に多くあります。つゆがおいしいです。ただ、麺はお店によって、ゆですぎを出されることがあるので、固めが好きな方は事前に申し出を。
2「川沿いで散歩」
→ 広島駅前や平和記念公園のあたりは、穏やかな川が流れていて景色がとてもよく、ここを散歩するとかなり落ち着きます。
3「市内を走る路面電車に乗る」
→ガタゴト路面を走る路面電車(通称:市電)が大好きです。車両は、かっこいい超低床電車というバリアフリーの近代的なものと、古いものをそのまま使ったレトロな車両があります。市電初心者はレトロな方に乗るといいです。
路面電車に乗っていると本当にわくわくしてきて、広島弁も快調に戻ってきます。
「晴れとる日に市電に乗るんが気持ちええんよ。」
路面電車。かっこいい。
広島で体を馴染ませたら、両親の住む庄原まで高速バスで2時間、これが結構遠いんです。
高速バスで2時間。一路庄原へ。
バスからふと目をやると、山が続き、そのふもとに田や畑が広がる風景が広がります。
都市部や住宅街で暮らしていると、田や畑が広がる様は物珍しいものに見えますが、日本の主な風景はこのような田や畑の見える景色に多く占められていることを実感します。
バスから見えるのは殆どこんな景色。
実家に到着しました。すると、早速母親より「あれ食べんさい(食べなさい)」「これ食べんさい」のおもてなしを頂きます。
手作りジャムをヨーグルトにのせたけん食べんさい。
毎回、土地ならではのものを食べさせてくれようとするのは嬉しいのですが、胃袋にも限界というものがありますので、加減というものを覚えていただければと、贅沢ながら言ってみたりします。
デザートに出してくれた無花果(イチジク)は畑でとれたものです。
無花果って一瞬読めないですよね。イチジクです。
無花果の苗の取り寄せ方
無花果を出してくれたときに父親が「それあんまり甘くないじゃろ、在来種の方が甘いんよ。マスイドーフィン言うてマスイノウジョウから取り寄せて…」と説明を始めました。
「桝井農場のカタログがあるんよ」
「マスイドーフィン?マスイノウジョウ?何それ?」詳しく聞きます。
「こういうカタログがあって苗を取り寄せるんよ」
「うちで植えたのはこの『桝井ドーフィン』言う品種」
どうやら父は広島県廿日市市にあった桝井農場というところから無花果の苗を購入し、育てていたようです。
当たり前のことですが、確かに農場を始めるには苗が必要で、その苗を販売している農場もあるのです。
実際にカタログを目にすると、こういった産業が農業のとても大事な基盤を支えているのだということを少し感じられたような気がしました。
桝井農場さんは無花果の各品種を米国から持ち帰り、自分の農園で品種改良したものを「桝井ドーフィン」と名づけて販売していたようです。
しかし、残念ながらこの桝井農園さんは閉園してしまったようです。後を継ぐ方がいなかったようで、高齢化の波を切実に感じました。よく味わって食べることにしました。
「桝井ドーフィン」はさっぱりした上品な甘さ。
「よく味はふ者の血とならん」という武者小路実篤の言葉を想いながら。
調べたところ、こういった果樹の苗はインターネットでも取り寄せ可能です。「果樹 苗木」などで検索するとたくさん出てきますので、果樹園を始めたい方は是非。
父の教科書
そう言えば父は作物を育てる際に何を参考にしながら育てているのか気になって聞いてみたところ、一冊の本を出してきました。
「中国地域野菜技術研究会 野菜百科」
中国地方に特化した野菜の育て方、収穫時期などが詳しく解説されている本でした。
畑で育てたものにはチェックを入れています
各種の植え付けの時期や収穫時期が分かる表。分かりやすい。
それぞれの作物について詳細にわたり解説
あまりこういった種類の本に触れる機会がないので、一つ一つが興味深く、かなり読み込んでしまいました。インターネットで調べたところ、作物の育て方などはかなり多くの情報が載っています。農業、やっぱり熱いです。
お風呂入りんさい
じっくり野菜百科を読んでいると母親が「お風呂入りんさい!」と言ってきました。
「う~」と肯定とも否定ともつかない生返事をしながら野菜百科を見ていると、「ちょっと来て!」と母親の声。なんだなんだ。
「風呂桶を洗った方がいいんじゃない?」by カマキリ
風呂桶の中にカマキリ様がおられました。
「外に出しちゃりんさい」
「ま~田舎じゃけえ、虫も多いわ」
あまり ちかよるな by かまきりりゅうじ
田舎は虫との共存です。都会のアパートで暮らしているとごく小さな虫が一匹部屋の中にいるだけで外に出そうと必死でばたばたしますが、ここではカマキリや大きなクモ、かなぶんや蛾、バッタなど、色々な昆虫に出会えます。
虫が苦手な方には辛い環境かもしれませんが、しばらくすると、意外と慣れてしまうものです。というのは山というのは、人間の存在は一部分でしかなく、山の木や森の中で、そこに暮らす動物や虫たちの世界を中心として広がっているということが、だんだん体に染みてわかってくるからです。
次回もいろいろ両親にインタビューします。
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