「山北のお峯入り」全貌公開 [あらゆる祭りを楽しもう!]

     

国指定重要無形民俗文化財の「山北のお峯入り」。神奈川県内最小の村(旧共和村)で伝えられてきたこの民俗芸能が5年ぶりに行われた。なんと文久3年(1863年)から17回しか公演されていないという。
さて、そのお峯入りの実体やいかに。

text by 和田 朗

開始時間の9時半。時刻ぴったりに、それは始まった。

中央にしつらえられた神輿に、神主たちが集まる。

 
神主と、黄色い法被は実行委員の方々

演者全員が続々と列を成して舞台に入り、神輿前に並ぶ。

 
ずらり

それにしても、観客席もいっぱいになった。会場の脇に線路があるのだが、2両編成の電車は毎回毎回たくさんの人を乗せ、あれよあれよという間に、観客席は埋まり、立ち見の客もいるほど。正直、こんなに混むとは思っていなかったのでびっくりだ。

 
観客席いっぱい

開会の挨拶に始まり、町長や保存会の会長からこの祭りの歴史や今回開催にあたっての話などが続く。

このお峯入り、演技者に80名を要するらしい。それも男子のみだ。この山北町で80名もの男子を集め、演技の練習をし、経費を捻出するのは並大抵のことではない。
国指定の重要無形文化財とはいえ、伝承していくのは人なのだ、町なのだ。

とにかく、人集めに苦労するようで、下は8歳の少年から最年長は85歳という。
びっくりするようなご高齢の方があちこちに見えるのであるよ。すすすすごい。
この後、今回の演舞が5回目となる人達に賞状授与があったのだが、「えー5回!25年もやってる人達かあ!」と思ったら、演技者の半分以上が対象者であった。なんと濃いことか。

一連の説明や、来賓挨拶が終わったところで、お峯入りの開始となるのだが、「ええーーー。お峯入りの開始は10時からとなります・・・。・・・まだ時間があるのですが、ええーー10時になると、町のアナウンスで音楽がなりまして・・・記録をとるのに、それが被ると少々困りますので・・」と放送が入って、周りがどっと和む。

毎年行われるわけではないので、とにかく伝えていくこと、その為の記録をとることが重要らしい。とにかくカメラマンが多いのだ。あっちにもこっちにも腕章を付けた人々がカメラを抱えて右往左往している。

 
道行き開始

果たして期待通りの暢気で可愛い10時の音楽が鳴り、「道行き」の開始となった。

いただいたパンフレットによると、演技は、全員が行列を組み、会場を一周する「道行き」から始まり、みそぎ、満月の歌、棒踊り、鹿枝(かしえ)踊り、棒踊り、修行踊り、歌の山、四節(しせつ)踊り、棒踊り、五色踊り、棒踊りの8演目、11種類の歌舞からなる。各演目はそれぞれが独立しており、前後の歌舞に対してなんの繋がりもなく、演目の集合体が「お峯入り」なのだ。


ゆっくり練り歩く

道行きは、笛太鼓の囃子(はやし)に合わせてにぎにぎしく練り歩く。先頭の天狗から獅子、おかめ先払い山伏(やまぶし)・・・・。このあたりは練り歩くだけだが、中央の棒踊りや奴(やっこ)、万燈(まんどう)などになると、掛け声とともに、両手・両足を大きく振りながら非常に軽快だ。


山伏

非常にご高齢な方は数名見受けられたのだが、この山伏の方!(小柄な山伏)最年長かもしくは最年長に近いと思われる。決して軽くはないであろう衣装を身に着け、腰を伸ばして・・。

山伏は、道行き以外にも修行踊りという演目がある。おじいちゃんの熱演に胸が高鳴る。


棒ふり

棒ふりの面々は、4回も演技があるので、皆若い。


台弓と奴

ピンクの衣装は台弓(だいゆみ)。紺の法被(はっぴ)が奴。この後に続く、華やかな万燈は威勢がよく人目をひく。

お峯入りの伝承の知恵として、村全体から演技者が出るようにしたり、役柄を地域や家に割り当て、家の中で演技を伝えていく事が出来るようにしたりと、いろいろあるらしいが、その中でも、火事による衣装や道具の喪失を防ぐため、一箇所に集めて保存せず、各戸で自分が演ずる衣装や道具は保存したという。・・・・この万燈、華やかだが、でかい。この万燈の割り当ての家は大変だなあと人事ながら心配だ。


猛々しい鼻髭

演じる者によっては、鼻髭を描いている。おそらく奥さんお母さんの眉墨利用なのだが、なかなか雄雄しくて素敵だ。
日本人の顔には、付け髭より、描き髭がよく似合う・・と思うのは私だけか。とにかく皆さんお似合いだ。ダリ髭の場合、特に恰幅のよろしい方の方がよく似合う。


先箱と弓

これが、最年少8歳コンビの先箱(さきばこ)。そして、その直後の弓に、ご高齢の方がいるのだが(左端)、この方がまた素晴らしい。先ほどの山伏と違い、弓も手を前後に大きく振り、体を左右に揺らし足を蹴り上げて歩くのだが、きっちり1周、手足振り上げて行進された。本当にこのお峯入り、現役おじいちゃんたちの底力がすごいんである。
どれだけ私が興奮して感動し続けていたかは、帰ってから写真を整理したら、この方の写真だらけだったことからもよくわかる。体育祭で憧れの先輩を隠し撮りする女子高生さながらである。


この後、11種もの演目が1時間にわたって、繰り広げられ、私は十分楽しんだのだが、正直いうと、演目ひとつひとつにはそれほど目立った大きな動きはないのだ。
先程の「道行き」の延長のようなものが多く、いわゆる祭りの猛々しさ派手さというより、伝統行事の粛々とした風情。粛々・・ちょっと違うかもしれない、堅苦しさというものはなく、滑稽さがあったり、本当に「村民の村民による村民のための行事」が進化していったものという感じだ。

さて、すべての演目を写真とともに取り上げたいところだが、そうすると写真の数が膨大になってしまう。なので、少々抜粋して・・・・。

道行きの後の「みそぎ」。


おかめ

この演者の中の道化役ともいうべき「おかめ」が張りぼての大きな男根(背負っている白いもの)を背負って色幣(しきへい)をもってお払いをする。

すべての行事は基本的に神輿に向かって行われるのだが、そのあと会場のすべての方向にも同様のアプローチがある。

この「おかめ」の場合、ひょうきんな役どころなので、色幣を振った後に、小首をかしげてポーズをとったりして、中身は男の人なのに、やけに可愛い。


棒踊り

4回も行われる棒踊り。お峯入りの華なのでしょう。6人の棒ふりが、棒を持って一列で踊る。この天を指すポーズが決めポーズ。


鹿枝踊り

台弓・奴・万燈・先箱・弓・ほろかごの38人による、道行きを除けば一番大人数で行われる演目。道行きと同様、両手足を大きく振り上げ、掛け声をかけながら練り歩くのだが、道行きでは、台弓や万燈など、一人一つ抱えていた道具を左右二人の一組で、歌に合わせて道具を右に左に手渡しあいながら進んでいく。あああ、落としそう!とどきどきしながら見るのがきっと醍醐味。


棒踊り

はい、また棒踊り。これは4回目、最後の棒踊り。最初の二回は一列になって割りと緩やかに踊り、派手な動きはないのだけれど、後半二回は円になり、棒をぐるぐるバトントワラーのごとく回して早いテンポで踊る。これがさっき、陰で練習していたアレだ、アレ。


四節踊り

さて、面白かったのがこちら、四節踊り。
中央の金色の衣装が殿様。他、若頭(わかがしら)、お側(おそば)、国見(くにみ)役で、歌と太鼓囃子にあわせて蹴鞠(けまり)を行うというもの。

蹴鞠・・・本当にするのかしら。中村俊輔かロナウジーニョかってくらいにリフティングしてくれたら惚れちゃうかも。


そーれ

と思ったのだけれど、当然そんなアクロバティックなことが行われるわけもなく。蹴鞠の様子を模して踊る・・ということだった。足を振り上げる所作とともに、鞠を放り投げ・・・・。

ゆったりと行われるのが、非常に貴族っぽい。「そーーれぇ。」


フィナーレの道行き

最後に、全体による道行きが行わる。

私が心奪われたおじいちゃんが通ると、拍手が沸き起こる。うん、すごい素晴らしい。

途中、ぱらっときた雨もなんとか本降りになることなく、つつがなくすべてが終わって「ああよかったよかった」としみじみ思う。おこがましいようだが、なんだか山北町の頑張り、を見た気がする。

これから行われる午後の部は、山深い中だから、さぞかし雰囲気満点であることであろうよ。

「すげえなあ、あの爺ちゃん達、これから2時間半歩いて、午後の演技場まで向かうんだろ」

いやいやいやいや・・・それは、観客のための駐車場がないということで、演技者は車でしょうよ!それはいくらなんでもここまで頑張ったおじいちゃんたちを酷使しすぎ!!





きのこ汁

帰りに近くでやっていた「きのこ祭り」できのこ汁を食べて帰る・・・。汁に始まり、汁に終わる。


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